三体問題

現代中国のSF小説:劉慈欣『三体』を読んでいる。「三体」というと漢字の書体(楷・草・行)のことが普通なので(行の代わりに隷・篆を加えて四体とも),書名は「三体問題」とするほうが誤解がない(英訳はそうなっている)が,著者はそれを狙っているのかも。

本書は3つの太陽からなる恒星系を舞台にした「ファーストコンタクト」もので,力学でよく知られている事実「重力三体系は多くの場合カオス的になる」ことを,物語展開にうまく使っている。

しかしながら,カオスではなく周期的な場合も昔からいくつも知られている。20年近く前に Chenciner-Montgomery が見つけた「8の字解」は卒業研究に採用したことがある:KAM 定理の成立を調べたのである。検索したところ,最近リバイバルらしく Li-Jing-Liao の論文を見つけた(arXiv:1709.04775v1):小説にインスパイアされたのかもしれない。

下図は「8の字」と「LJL-1」を LF2 法と YS4 法で計算した軌道である(解法については拙著『非線形物理学』参照)。結果は数値的にたいへん敏感でとくに後者の場合,粗い精度ではすぐに衝突してしまう;まさに小説世界と同じである。詳しくは改めて記事にする予定である。


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