「冪級数=連分数」問題の起源

別に「物事の始まり」を詮索する趣味を持っているわけではない。連分数は「ユークリッドの互除法」に始まることはよく知られている:例えば高木貞治『初等整数論講義」など。その一般化として冪級数を連分数で表したとき「各係数の相互関係を記述する公式」を求めよという問題設定ができる。Crelle 誌(1847)にある E. Heine の論文は,彼による超幾何級数の q-拡張を論じた有名なものだが,途中の章にオイラーによる印象的な恒等式が書かれている(写真)。オイラーの『無限小解析』が引用されているが,これが「冪級数=連分数」問題の素朴な起源と考えられる。それにしてもオイラー先生はこんな等式をどうやって思い付いたのだろうか。


もう少し後には T. Muir による論文(1876)がある。Edinburgh Trans. に載っているもので,読むには Elsevier から料金を要求される。もちろん他にも探せばアーカイブがあるので払う必要もなく入手できる。ちょっと論理がゴタゴタしていて読みにくいが,これが冒頭の「冪級数=連分数における各項の相互関係問題」に解答を与えた最初のものであろう。


じつを言うとこの Muir 論文は Royal Soc. 誌の L.J. Rogers 論文(1905)の引用で知ったもので,こちらには「公式のほぼ決定版」と思われるものが書かれている。この Rogers による 1905 年論文は初見で,彼の与えた解答には大いに興味を惹かれた。というのも,その公式には私には馴染みの「ハンケル型行列式」が persymmetric という形容で登場するからである。なお,有名な「Rogers-Ramanujan 恒等式」は,この同じ Rogers が 1894 年に提出したものだが,Ramanujan が 1917 年に再発見するまで埋もれていたことはよく知られている:例えばハーディ『ラマヌジャン(12の講義)』など。


(追記 May.4)本稿の解説として「Essays by MathJax 23」を数式も含めて書いたので,興味ある人は読んでほしい。そこではオイラー先生がどうやったかを想像してみた:オイラーは「形式感覚」が異常に優れていたらしい。

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