agreement to disagree
表題は「互いに意見が異なることに同意する」という意味で,最近知った R.S. Fritzius による論説 (1990) のタイトルから取った。それは「電磁気学の不可逆性」をめぐってリッツとアインシュタインの間で Physikalische Zeitschrift 誌で交わされた論争の最後に書かれた共著論文 (1909) を形容した言葉である。こういう共著(ほんの 40 行ほどの短い論文だが)の仕方もあるのだと笑ってしまった。
原論文にアクセスするのに少し手間取ったが,幸いに全てネット上で入手できて早速に読んでみた。論争は Ritz が2編,Einstein が2編,共著が1編の合計5編から成っている。中でも,リッツ論文はマクスウェル・ポアソン方程式の解には遅延と先発の2つがあることを指摘したもので,これについてはリーマンによる未発表論文があることを以前のブログにも書いた。アインシュタインによる1編は「光量子説とボーア理論からプランク分布を導く」有名な論文 (1916) の先駆をなすもので,不勉強な私には未読の論文でもあり面白く読んだ。
ファインマンのエッセーに「ホイーラー・ファインマン理論 (1945) を説明するためにアインシュタインを訪問する話」があったと思うが,このときのアインシュタインはリッツとの間の論争を思い出していたに違いない。この「加逆・不可逆の問題」は,ツェルメロ・ボルツマンに始まった歴史的な問題の変形で,リッツ・アインシュタイン論争も舞台を変えて行われた同じ問題をめぐる議論であるとも言える。
ここしばらく数学の問題に掛かりっきりなのだが,これを機に「時間の矢の問題」への興味が再燃している。もう一つの切っ掛けは「渡邉慧先生と豊田利幸先生の師弟関係」に気付いたからで,豊田先生の書かれた論説(「数理解析研考究録」の数編と「思想の科学」渡邉慧追悼号)を感激を持って読んだからでもある。
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