高瀬正仁『クロネッカー I』

最近出版された上掲本(現代数学社)を読んでいる。これは副題を「青春の夢と楕円関数(楕円関数論2)」といい,楕円関数論1は別の著書『アイゼンシュタイン』に付いているので,本書はその続編という位置付けで,今後『クロネッカーII』も予定しているのだろう。この組み合わせはヴェイユの『アイゼンシュタインとクロネッカーによる楕円関数論』を想起させる。

ヴェイユのその著書は,彼が「数学者は独創的な思索を喚起されんがために古典を読む」と別のエッセイで書いたように,アイゼンシュタインとクロネッカーによる「発散する無限和の処理法」を通奏低音に彼らの楕円関数論を紹介したもので,その後の発展であるダムレルの定理やチャウラ・セルバーグ理論に説き及ぶというものであった。その際,彼らが知り得なかった知識(超関数など)も縦横に利用しているのが特徴である。

一方で高瀬氏のこの本は,同じ論文群を材料にしながらも,クロネッカーが手にすることの出来た知識と手段だけに基づき,彼が考えたであろう道筋を丹念に追うというスタイルである。そのため計算や論理が錯綜としており,決して読みやすくはない。むしろ「自分ならこうするのになあ」と別法を考えてしまうこともしばしばであった。おかげで,論文のネタとなる新しい問題を得ることが出来たのは嬉しい収穫である。しかし,高瀬氏のこのスタイルでは,例えばラマヌジャンの「ナマギリ女神から聞く」という特異な方法を再現することは不可能であろうと思う(笑)。

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