本の題名あれこれ(その1)

チャールス・ラム(&メアリー・ラム)の子供向け再話本『シェイクスピア物語』を中学の頃に図書室で読んだ記憶がある。彼の『エリア随筆』を知ったのはもっと遅くて林達夫「十字路に立つ大学ー困った教授,困った学生ー」を通してだった(岩波文庫『林達夫評論集』所載)。ラムの『エリア随筆』は当該論文の最後の方に「休暇中のオックスフォード」が引用されている。ラムは家庭の事情で大学に進学できなかったのだが,いわば「偽学生」として大学生活を経験したのである。教訓:偽学生の方がよほど大学の魅力をよく分かっている。

ここで書きたいのはそのことではなく『エリア随筆』そのもののことだ。当時左側(現在絶版)を入手して読んだのだが,最近になって右側が同じ文庫から新訳刊行された。両者の題名の違いに注意されたい:新しい方には「抄」が付いているから抜粋という意味だ。どういうことかと思い後者を入手して理由がわかった。元々の『エリア随筆』には「正・続」の二つがあることを迂闊にも知らなかったのだ。前者は正篇の完訳,後者は正続からの抄訳というわけだ;「休暇中の」はどちらも収録。ここに至って林先生の忠告「エリア随筆は原書で読むべし」を思い出し,キンドル版『ラム姉弟著作集』を安価で入手したが,じつはまだ読了してはいない(笑)。

なお,日本の大学が大きく揺れたことが戦後二回あったのだが,冒頭の林論文は一度目の 1949 年に書かれており,私はその二度目の 1968 年を経験した後にこれを読んで両者の類似に驚いたのだった。当時『思想のドラマトゥルギー』(林達夫・久野収対談集)を読んで林達夫ファンになった私は,刊行中の『林達夫著作集』(平凡社,全7巻)を残らず読み益々傾倒したのだった。ちなみにバラ栽培を始めたのも先生の真似だ。鵠沼の先生宅とは広さに雲泥の差があるのでシェイクスピアガーデンは作れないけれど(笑)。

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