本の題名あれこれ(その2)
数学者の小野孝先生には『オイラーの主題による変奏曲』(実教出版)という魅惑的な題名を持つ著書がある。刊行当時に,日本橋の丸善か新宿の紀伊国屋か忘れたが,同書が音楽書籍のコーナーに置いてあるのを発見して,通り掛かった店員に注意した愉快な記憶がある。今なら「**の主題による変奏曲」で検索すると,ブラームスによる**=ハイドン,パガニーニなどが出て来るから間違えるのも無理はない。なお,増補版が「Variations on a Theme of Euler」として出ている。古い日本語版は渡米前に後輩に譲ったので今はこの英語版のみが手許にある。
同書は「二次形式,楕円曲線,ホップ写像」という副題を持つのだが,私はそのホップ写像が目当てで購入したのだった。というのも,その頃「セレ・フレネ方程式」が登場する広田良吾先生の論文があって,そこでカギになるのがホップ写像であった。そこで「二匹目の泥鰌」を狙うというのが私の戦略だったのだが,セレ・フレネ=4元数の拡張としての「8元数版」という安直な期待は残念ながら満足されなかった。その試みはずいぶん経って「離散版のセレ・フレネ方程式」という形でようやく実を結んだのだった。詳しくは arXiv の雑誌記事「厳密解と計算機」か,論文 Variational Discretization of Euler's Elastica Problem を読まれたい。
小野先生には他に『ガウスの和,ポアンカレの和』(日本評論社)というこれまた魅力的な題名の著書もある。小野先生は洒落た題名を付ける名人ではないだろうか。ところで,考えてみれば「変奏」というのは新発見の良い技法ではないかと思う。同じことを別の数学者志賀弘典さんは『数学おもちゃ箱』(日本評論社)で「本歌取り」と形容している。変奏・本歌取り,どちらもアナロジーの一形式に他ならない。
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