ものの名前
事物をどういう名前で呼ぶかは任意である(差異だけが重要)とは言語学の常識だ。
しかし物理屋としては,例えば座標を x として運動量は p と書くことに慣れているせいで,違った風に書かれると「奇妙な感じ」がする。近頃,昔の数学者の論文で座標を x,運動量を y とするものに多数遭遇した:どうやらこれが 19 世紀の流儀だったらしい。アルファベット順であるから一応の筋は通っている。現代でも座標を q,運動量を p とする流儀がある:アルファベット的には逆順であるが。
こうして (x, y) 記法に慣れてきたのだが,昨日のこと「座標を y,運動量を x 」とする 1981 年(20 世紀!)の論文(著者は数学者)に出逢って驚嘆した。しばらく式を眺めていて「何かおかしい」と内容に不信感を抱き始めたところで,この事実に気付いたのである。いくら名前の付け方が任意であるとはいえ,これほど慣習に逆らった論文には初めてお目に掛かった。
数学には ex(x) で exp(2π i x) を表したり sin(2π x) を si(x) と書いた本がある。著者は大数学者ワイルで,その理由もわかる気がするがあまり普及していない。もっとも前者は e(x) = exp(2π i x) が特定の分野で標準的であるらしい。
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