ディラックの学位論文

ネット検索中に偶然「ディラックの学位論文(Dissertation)」と称するものを見つけた。晩年を過ごしたフロリダ州立大学のマークが付いているので,死後に居室で発見されたものと思われる。完成品ではなく手書きの準備原稿で,裏側には内容と直接関係しない(と思われる)数式が色々と書かれているので,後から計算用紙に使われたのかもしれない。

面白いのは「目次」である。有名な「変換理論」の定式化に続いて,水素原子の準位や多電子問題の他,異常ゼーマン効果・コンプトン散乱などの章がある。ただし原稿は変換理論の記述のみで,その他に関する具体的な記述部分はなく,尻切れ状態になっている。奇妙なのは「Quantum Time」という章で,これは何を意図したのだろうか(時間とエネルギーの不確定性?)。

いずれにせよ,提出された最終版は論文集にあると思うが「これほど盛り沢山ではない」と想像する。実際,Proc. Roy. Soc. Phys. 誌にある最初の論文には,変換理論の他にフェルミ-ディラック分布と電磁場による摂動が書かれていて,水素原子・異常ゼーマン・コンプトン効果の話題はない。また,電磁場の量子化や相対論的電子の方程式はこれより少し後の話である。有名な「単極子」論文を含めこれらのRSPの論文は全てオープン化されていて自由に読むことができる。もっとも,学生諸君には単極子以外の話題に関しては教科書『量子力学』(岩波書店)のほうをお勧めする。


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