Fermi-Pasta-Ulam-Tsingou 問題
昨年のブログに書いた戸田盛和先生による回顧記事「格子ソリトンの発見」には,研究の端緒になった「Fermi-Pasta-Ulam 論文」そのものは1966年当時は「機密扱い」のため読むことが出来なかった,と書かれている。原爆・水爆を含む核物理学の理論と実験のための施設であるロス・アラモス研究所の技術報告書だからである。この論文はその後のカオス・ソリトン研究の嚆矢であるに止まらず,計算機物理学の始まりを告げる論文でもある。
私自身は当該論文を MIT から出た Ulam の論文集(1974 年出版)で読んだのであるが,昨晩何気なく検索を掛けたところ,米国エネルギー省のサイトで現物を発見した:https://www.osti.gov/biblio/4376203
中身は周知のものと違わないように見えるが,著者に M. Tsingou という名前が加わっている。これはどういうことかと調べたところアーカイブに解答があった: "Fermi, Pasta, Ulam and a mysterious lady" (arXiv:0801.1590v1)。Thierry Dauxois というフランスの科学史家による論文で,それによると実際の数値計算(プログラミング)を担当した女性研究者だという:FPU 論文をよく読むと,脚注に Mary Tsingou への謝辞がある。論文を書いたのは三人かもしれないが「Work done by four」なのだから,いまなら著者に加えるのが普通だと Dauxois は言い,今後は「FPUT problem」と呼ぶべきだと書いている。
中性子星パルサー発見の陰には不当に扱われた女性研究者(Jocelyn Bell Burnell)のいたことが今では知られているし,カマーリング・オネスの超伝導発見の裏にも正当な評価を受けていない男性研究者(Gilles Holst)がいるという(Matricon and Waysand, "The Cold Wars")。「よくあることだ」と嘆いていては済まされない問題である。
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