接触幾何学とヤコビ括弧
大昔の学部生時代のこと,朝永先生による「多時間理論」の解説記事を読んでいて「接触変換」という言葉に出会った。力学変数をより性質の良い変数に変える操作のことで,例えば相互作用表示への変換とか集団座標への変換などがその例であった。当時は「正準変換と同じじゃないか」と安直に考えていたのだが,そうではなくもっと奥が深いことを最近になって思い知った。
通常の正準力学系は偶数次元だが,奇数次元でも類似の理論を考えたいと思うのは自然である。それを「接触幾何学」といい,アーノルド『古典力学の数学的方法』に概略が書いてあるのだが,記述が抽象的でどうも要領を得ない。当面の課題は,接触幾何学における「ポアソン括弧」類似物が欲しいのだが,色々な実例で試しても期待通りになってくれない。思い余って Sophus Lie の論文(1875)にまで遡ってみたところ,論文中に覚えのある式「ヤコビ括弧」を発見した。これが求める答えだ!ヤコビ括弧は特別な場合にはポアソン括弧になる。
「覚えがある」というのは次のような事情からだ。十年以上前に某出版社から「物理数学」のテキスト執筆の依頼を受けたことがある。それ自身はあまりの遅筆のせいで解約になったのだが,その執筆済みの章「偏微分方程式」の中で「ヤコビ括弧」について書いたことを思い出したのだ。今となってはどこから(クーラン・ヒルベルト?)パクったのか忘れてしまっているのはご愛嬌。このことで,問題に登場する変数 $z$ が物理でいうところの「作用変数」のことだと気付くことができ,問題が一挙に具体的=物理的になったのは収穫であった。
追記:この「ボツ原稿」は少し整理をして arXiv に載せたいと思うのだが,同様な未発表原稿が他にもいくつかあるのが悩みのタネである(笑)。
0コメント