外国人の名前


小林秀雄は A. Rimbaud を一貫してランボオと書き,他の訳者(堀口,宇佐美,中地など)のランボーと一線を画していたが,友人だった中原中也と共に少数派である。ところが,ネット上では「ランボー」と書くとスタローンの映画が出てきて「ランボオ」にしないと詩人に辿りつかず,逆転している。ちなみに映画の方は J. Rambo と綴るらしい。人名の訳はなかなかに難しい。

科学者の名前でも,例えばハイゼンベルクは以前は語尾が「グ」のほうが多かった。シュレーディンガーはシュレディンガーと伸ばさない人もかなりいる。ファインマンの『ご冗談でしょう』にマンハッタン計画の話があって,そこで「スマイス, Smythe」とすべき人を岩波本では「スミス」と訳している。まあ無理もないが「スマイス報告」を知っている人なら間違えなかったと思う。このときの話は録音が残っており,ファインマンは確かに「スマイス」と発音している。

大昔に『千の太陽よりも明るく』(Heller Als Tausend Sonnen)という本をドイツ文学者が訳したベストセラー本があった。今は平凡社ライブラリーで読めるが,人名でおかしいのがいくつかある。ちょっと挙げてみると,パイアース(パイエルス)チリング(ティリング)フェイマン(ファインマン)ゴーズミット(カウシュミット)ジラード(シラード)テーラー(テラー)など。許せるのもあるが,フェイマンやテーラーなどはちょっと頂けない。

ロシア系の名前もよくわからない。映画のエイゼンシュテイン Sergejs Eizensteins はラトビア出身で,物理学者のブロンスタイン Matvei Bronstein はウクライナ出身なので,違って当然とも言えるが,そもそもキリル文字との対応が1対1なのかどうかも怪しい。

小林さんが亡くなった後に出た文庫本で集英社『ランボー詩集』(小林秀雄訳)というのを最近見つけた。著者の了解は得ていないのだろうが,今後はますます少数派になり,いずれ消えてしまうのだろうか。寂しい限りだ。


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