アーベルのパリ論文とグーデルマン関数
有名だが未読であったアーベルの「パリ論文」というのを最近改めて読んでいたら,いわゆる「アーベルの定理」の具体例としてご覧のような積分公式が載っていた。この積分は変数変換 $x=\cos\theta$ をしたのちさらに $\theta$ を純虚数に変えれば,右辺の対数の中身は「複素数とその共役複素数の商」になっており,その種の対数は逆正接関数で書けるので,右辺は拡張グーデルマン関数の2番目の表示式に他ならないことがわかる(ただし $a$ の符号は逆にする)。
グーデルマンはヤコビの弟子だから当然この論文を読んでいたはずだ。双曲線関数が三角関数の複素化になっているという彼のアイデアと彼の名を冠した関数の発端は,もしかするとこの論文にあったのかもしれない。そうだとするとグーデルマン関数は最初から拡張形だったことになる。
ちなみにこの論文が有名なのは科学学士院(アカデミー)に届いた原稿をコーシーが忘却したせいでアーベルの死後になって世に出たという経緯もあったからだ。ヤコビがルジャンドルに怒りの手紙を書いたという逸話は高木貞治『近世数学史談』にも書かれている。
(訂正)私が読んだのは「パリ論文」ではなくて関係はあるが別の(表題がそっくりな)論文だった。実物はもっと長くて複雑な(アーベルらしくない)構成をしており,高瀬正仁『アーベル/ガロア 楕円関数論』には入っていない。クレルレ誌に載った超楕円の場合が代わりに訳出されている。この論文を読んだ結果ヤコビはルジャンドルに問い合わせの手紙を書いたのだ。
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