小出昭一郎先生

大昔のこと。談話室で院生仲間と駄弁っていると,紙袋を下げた小出昭一郎先生が突然入って来られて「これあげる」と言いながら新刊書を配り始めた。遠慮なく頂戴したけれど「なんて太っ腹な先生なんだ」と驚いた:何しろ小出研所属ではない学生ばかり十人近くが居たので。それが筑摩学芸文庫として再刊されている下の写真の本だ。頂いた本はその後に後輩の院生に譲ったので残念ながら手元にはない。

自分が本を出すようになって,この時のことが脳裏をかすめることもあったけれど,如何せん貧乏教師なのであんな大盤振る舞いはできなかった;学生諸君には申し訳ない限りだ。小出先生の書かれた学会誌記事に「優雅な物理」というのがあったと思うが,確かに加速器などの大規模装置に制約されない物理学を優雅に展開されたのであろう。なんとなく19世紀イギリスの貴族物理学者キャベンディッシュを彷彿とさせる。あるいはむしろド・ジェンヌの唱える「印象派物理」がそれに近いのかもしれない。


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