ディンキン図形は呪符か?

下の写真は「呪符木簡」とよばれるもので,大阪市の桑津遺跡から出土したものだ。こうした木簡は各地で見つかるが,これが最古(7世紀)のものだそうだ。上部に不思議な図形が描かれており,陰陽道で使われる呪符の一つだという。道教思想の陰陽五行説は仏教と同じ頃に日本に伝わったが,宗教としての道教はあまり普及せず中国の「道観」のようなものは見かけない。五芒星の付いたお堂を見かけることがあるが,あれは寺や神社に道教が取り込まれたのだろう。

さて,これを見て連想したのが「ディンキン図形」だ。ディンキン図形とはリー群(リー環)を特徴付ける「カルタン行列」を図形化したもので,写真のものは D_7 =次数 14 の直交回転群のそれに相当する。プリンストン大のクナップ先生によれば,ある講義でディンキン教授は「自分の名前が付いてはいるがその元祖はコクセターであり,それよりも(自分の名前は付いてないが)キャンベル・ハウスドルフ公式に対する「組合せ論的公式」(E.B. Dynkin, Doklady Acad. Nauk SSSR 57 (1947) 323)の方がよほど自慢である」と話されたそうだ。

数学や物理に現れる色々な図形は素人目には呪符と大差がないのかもしれない,と思った次第。「おまじない」だと思えば却って抵抗がなくなり学習には好都合なのかも。

(補追)以前に J.Math.Phys. に載せた論文(arXiv にある)と同時期に書いた日本語論文(未発表)があったので arXiv に加えた。上掲論文の内容に加えてディンキンの組合せ論的公式についても触れている。

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